「来てくれてありがとう」月に1度の広場で親子に寄り添う、移動児童館の20年【前編】

西宮市では、子育て支援事業のひとつとして、児童館や子育て支援施設のない地域の公民館などで定期的に活動する「移動児童館」が実施されています。

2004年のスタート以来、「お友だちがほしい」「おおぜいの子供と遊びたい」「おしゃべりがしたい」「安全で安心して遊べる場所を探している」など、友だちづくりや、情報交換の場として、子育ての不安やストレス解消を求めて、多くの親子が集っています。

市内複数の児童館で勤務した後、現在は移動児童館で主任を務める松岡笑先生に、これまでの歴史や活動の様子、ご自身の経験に基づいて考える子育て支援の必要性など、移動児童館の今とこれからについてお話を伺いました。

西宮市子育て総合センター 移動児童館 主任児童厚生員 松岡笑先生

――最初に、移動児童館ついて教えてください。

移動児童館は、児童館は遠くて行くことが難しいという親子さんがいる地域へ伺い、その日限定の児童館を開く子育て支援事業です。おもちゃや絵本、親子で楽しむプログラムを用意して、お迎えしています。

2004 年 4 月に高木公民館・南甲子園公民館・越木岩公民館の 3 カ所で、0~2 歳児向けの「よちよち広場」、3~5 歳向けの「ぴょんぴょん広場」、4 歳以上から小学生を対象とした「どんどん広場」の 3 種類の広場からスタートしました。
現在は児童館や移動児童館の利用時に、未就学児の保護者の付き添いが必須ですが、当時は 4 歳から子供だけで過ごすことができたので、「どんどん広場」は終了する時間に合わせてお迎えに来てもらうスタイルでした。

2008 年には西宮浜公民館が開催場所に加わり、その後も場所を増やしたり、年齢対象を変えたりして、現在に至ります。いまは0~1 歳向けの「ぽかぽか広場」、0~2 歳向けの「よちよち広場」、2~5 歳向けの「ぴょんぴょん広場」、0~3歳向けの「夙川出前子育てひろば」の 4種類です。月最大 17 回、年間約 170 回開催しています。

ぽかぽか広場の様子
ぴょんぴょん広場の様子

――対象年齢が重なっている広場がありますね。

幼少期は1歳、2歳とひとくくりに言っても、月齢によってできることに差があります。「よちよち広場」は小さい子向けすぎるけれど「ぴょんぴょん広場」にはついていけない、といった声も聞くようになり、できるだけ広場と年齢が上手く嚙み合わない時期が発生しないように考えて、現在の構成に変わっていきました。

お子さんの成⾧に合わせて居心地の良い広場を選んでもらえたらいいな、と考えています。

――ニーズに合わせて柔軟に対応されてきたのですね。近隣の市で移動児童館を実施している地域は少ないですが、西宮市としては力を入れていらっしゃいますか。

そうですね。現在の西宮市の石井市⾧は、移動児童館の拡大を選挙公約に入れられていたので、着任後に4カ所拡大されました。

本音を言うなら、新しい児童館を建てて欲しいと思いますが、地域に馴染みのある施設で開催することで、親子さんが安心して足を運べる場所づくりができるのかなと思います。

未就学児向けには移動児童館があり、小学生以上には「西宮市放課後キッズルーム事業」も進めるなど、市内の様々な場所で親子や子供の居場所づくりに取り組んでいます。

――近隣市だけでなく、全国的に見ても「移動児童館」を開催している地域は少ないようです。モデルケースが多くはない中、どのように継続されてきましたか。

今年でもう 21 年目なので、私たちは当たり前のようにやっていますが、発足当初は手探りだったそうです。何を持って行けばいいのか、マットひとつの大きさにしても、右も左も分からない。

パッケージ化されるまで、当時の先生たちは大変だったと思います。今でも、何か足りないものがあったときは慌てますね。
公民館の受付で借りられるようなものであればいいのですが、そうではない場合は、準備の間に取りに帰ったり、事務所で待機している先生に持って来てもらったり、近隣の児童館に駆け込んだり。今でも年に1回は必ずあります。

開催場所へ赴くための、移動児童館専用車。おもちゃやマットなど様々な荷物を運び入れています。

――当日の持ち物はもちろん、事前の準備も大変ですよね。制作あそびやふれあい体操など、毎月楽しいプログラムがたくさんあります。

移動児童館のスタッフは、全部で 5 人。ひとりひとり経歴や得意分野が違うので、みんなの知恵や経験を合わせて、何をしたら喜んでもらえるかを考えています。

児童館で働くためには、保育士の資格または、幼稚園・保育園・小学校・中学校・高校のいずれかの教員免許が必要です。持っている免許の種類もスタッフによって様々なんですよ。

私が持っているのは中学校・高校の体育の教員免許ですし、幼稚園や保育園で働いて転職してきた先生もいれば、育成センターにいた人もいて、みんなそれぞれ引き出しがいっぱいです。いろんなお母さんお父さんたちが来てくださるので、いろんな先生で出迎えられるのがいいなと思っています。

――当日の進行について教えてください。

最初の 30 分は、おもちゃを並べた自由遊びです。初めて来た方も、移動児童館という場所にここで慣れてもらえたらと思っています。そのあとは手あそびや制作、季節行事、絵本の読み聞かせ、講師の方をお呼びするなど、月によって様々ですね。

毎年年度末には、次年度の計画を練ります。4 月は移動児童館を開催しないので、その 1 ヵ月が 1 年分の準備期間です。
たとえば、少し前まではぴょんぴょん広場で「パプリカ」を踊っていましたが、来てくださっているお母さんから「今はもうパプリカはテレビでや っていない」と聞いて、新しい曲の振付を覚えたりしました。

私が移動児童館に行くような子育て世代だったのは、もうだいぶ昔のことになってしまったので、アンケートや広場でのお喋りか
ら「今求められているものは何なのか」を探しています。
今は英語が流行っているとか、リトミックが人気だとか、お母さんお父さん方のニーズを参考に、1年分の講師依頼も進めます。

――そういった準備期間を経て、5月からスタートするのですね。

新年度は初めて移動児童館に来る子供たちもたくさんいるので、雰囲気がわちゃわちゃしています。

子供ってすごいなと思うのは、毎月開催するうちに流れを理解してくれること。

ぴょんぴょん広場では、最初の 30 分の自由遊びが終わるとき、私はヘッドセットマイクをつけて「おもち ゃを片付けましょう」とアナウンスをするのですが、私が装着準備するのを見て、既に片付けを始める子がいるんです。

最後の体操を踊ったあとには、早々に上着を着て帰るモードになっている子もいます。月に 1 回だけなのに、子供って大人が思う以上に、本当によく見ていますよね。

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